上州武尊山スカイビュートレイル2026〜山岳救助ディレクターとして見えたこと・来年に向けて〜
事故が起きてから救うだけではなく、事故が起きる前にできることを考える。
2026年9月、上州武尊山スカイビュートレイルに、MEROSとして参加しました。
今回、大会ディレクターの岸さんからいただいた役割は、「山岳救助ディレクター」。
私自身、これまで消防の山岳救助隊として奥多摩の山岳救助に長く携わり、
現在も東京都山岳連盟の遭難対策委員・救助隊員として活動しています。
一方で、今回の役割のお話をいただいたのは大会のおよそ1か月前。
限られた時間の中で、何を準備し、どこまでの体制を作れるのか。
正直なところ、今年は「完成した山岳救助体制を作る」というよりも、
実際の大会に入りながら、今後必要となる体制を具体的に見つけていく一年目になったと思っています。

レース中も安全に関することは適宜話し合いイメージを交換する
目次
救護と救助を分けない
今回の大会では、Tight medical worksの稲垣医師、森田医師が救護全体を統括していました。
そこで事前に相談したのが、
「救護」と「山岳救助」を別々のものとして考えず、できるだけ一つにつなげて動けないか。
ということでした。
山の中で救助が必要になるケースは、その多くが同時に医療対応を必要とします。
転倒、滑落、転落、骨折、低体温、熱中症、急病。
「救助だけして終わり」ということは、ほとんどありません。
逆に、救護側から見ても、傷病者が登山道上や急斜面にいれば、そこから安全な場所へ移動させる手段がなければ医療だけでは完結しません。
つまり、救護と救助は、本来ひとつながりのもの。
今回はその接点を作ることを、自分の役割の一つとしました。
とはいえ救助にはたくさんの資機材が必要
剣ヶ峰周辺での山岳救助対応
大会前半は、過去に事故が発生している剣ヶ峰周辺を中心に配置しました。
夜明け前から山へ入り、選手が通過する時間帯に合わせて待機。
転倒や滑落等に備え、50mロープ、カラビナ、スリング、確保・引き上げ用資器材、背負い式救助担架、要救助者用ヘルメットなどを準備しました。
また、救助だけではなく傷病者の状態評価まで行えるよう、以下のような資器材も準備しています。
- 心電図モニター付き除細動器
- スクープストレッチャー
- 外傷処置資器材
- 低体温対策用品
- 熱中症対応用品
- 5Wデジタル簡易無線
- IP無線
すべてを山頂へ持ち上げられるわけではないため、何を山へ携行し、何を車両に残すのかも重要な判断になります。
この部分も、今後さらに整理していく必要があります。
「事故が起きたらどうするか」だけでは足りない
今回、過去に事故があった標高約1,700mから2,100m付近までの山岳区間を何度も移動しながら、自分の担当区域以外についても可能な限り確認しました。
その際に考えていたのは、
「ここで事故が起きたら、どう救助するか」
だけではありません。
むしろ来年に向けて重要なのは、
「なぜ、この場所で事故が起きるのか」
という視点です。
登山道の幅。
斜面の角度。
転倒した場合の転落可能性。
岩や木の根の位置。
雨天時の滑りやすさ。
選手が疲労した状態で通過する時間帯。
夜間なのか、日中なのか。
前後の区間でどれだけ体力を消耗しているのか。
選手が集中力を失いやすい場所なのか。
スタッフからの声かけで防げる事故なのか。
こうしたものを一つずつ評価する必要があります。
来年は「登山道アセスメント」から始めたい
来年度に向けて、MEROSとして取り組みたいことの一つが、山岳区間のリスクアセスメントです。
単純に「危険箇所」という印を地図につけるだけではなく、次のような項目を整理していきたいと考えています。
1.事故発生の可能性
転倒・滑落・道迷い・低体温・熱中症など、どのような事故が起こり得るのか。
2.事故が起きた場合の重症度
数メートルの転倒で済む場所なのか、転落すれば重症化する場所なのか。
3.救助アクセス
救助者がどこから入れるのか。
徒歩なのか、林道から車両で接近できるのか。
担架搬送が可能なのか。
4.通信環境
携帯電話、IP無線、デジタル簡易無線が使用できるのか。
通信不能区間では、どのように情報をつなぐのか。
5.傷病者接触までの時間
事故発生から、最初のスタッフ・救護・救助要員が到着するまで何分かかるのか。
6.公的救助機関への接続
消防・警察への119番要請後、どこで引き継げるのか。
救急車両はどこまで進入可能なのか。
こうした情報を事前に整理することで、初めて「どこに、誰を、何人配置するべきか」が見えてくると思っています。
救助隊を増やせば安全になるわけではない
山岳救助というと、どうしても「救助隊員をたくさん配置する」という話になりがちです。
しかし、それだけでは十分ではありません。
最も大切なのは、
事故そのものを減らすこと。
例えば危険箇所の手前にスタッフを配置し、一言声をかけるだけで防げる転倒もあります。
マーキングの位置を少し変更することで、選手が危険なラインへ入らなくなることもあります。
通過方向や時間帯によっては、注意喚起の方法を変える必要もあります。
気象条件によっては、その場所への選手の進入そのものを再検討する必要があるかもしれません。
救助体制とは、
「事故が起きた時に助ける仕組み」だけではなく、「事故を起こさない仕組み」まで含めて設計するもの
だと考えています。
後半は山岳用車両でファーストレスポンス
山岳区間の対応が終了した後は、救助・救急資器材を山岳走行用に準備したジムニーへ集約しました。
25年来の山での相棒です。
救護本部にいる医師2名が現場を離れることが難しいため、
傷病者が発生した際には、林道等を使って可能な限り現場近くまで入り、最初に傷病者へ接触する。
その後、現場の情報を救護本部へ送り、
- 現場対応で完結できるのか
- 搬送が必要なのか
- 119番要請が必要なのか
- 山岳救助が必要なのか
を判断する。
そんなファーストレスポンダーとしての動きも今回試行しました。
幸い、今年はこの体制を本格的に使用するような大きな事故はありませんでした。
それが何よりです。
「何も起きなかった」からこそ、次を考える
大会が無事に終了すると、
「事故がなかったから良かった」
で終わってしまいがちです。
もちろん、無事に終わることが一番です。
しかし、安全管理の立場からすると、何も起きなかった時こそ振り返ることが重要だと思っています。
たまたま事故が起きなかっただけなのか。
スタッフ配置が機能していたのか。
危険箇所への対策が有効だったのか。
今回は問題にならなかったものの、条件が少し違えば事故につながった場所はなかったのか。
これらを大会終了後に整理して、次年度へつなげる。
その積み重ねが、より安全な大会を作っていくのだと思います。
2027年に向けて
今年は、山岳救助ディレクターとしての「一年目」でした。
来年は今年の経験をもとに、
- 過去の事故発生地点の再評価
- 山岳区間全体のリスクアセスメント
- 救助要員の配置
- 必要資器材の標準化
- 救護と救助の指揮系統
- 無線・通信体制
- 消防・警察との接続
- ファーストレスポンダーの配置
- 悪天候時の対応
などを、大会前から整理していきたいと思っています。
そして目指すのは、
「事故が起きても助けられる大会」ではなく、まず「事故をできる限り起こさない大会」。
それでも事故が発生した時には、できるだけ早く選手へ到達し、救護から救助、搬送まで途切れることなくつなげられる。
そんな山岳救助体制を、大会関係者の皆さんと一緒に作っていければと思っています。
今回一緒に活動していただいたTight medical worksの皆さん、稲垣先生、森田先生、岸大会ディレクター、スタッフ・ボランティアの皆さん、そして選手の皆さん、本当にありがとうございました。
MEROSとしても、今回得た経験を次の現場へつなげていきます。
#アウトドアにセーフティという概念を
#無事が、最高の成果だ。
これをキーワードにしていきたい。
おまけ
MEROS勝手にサポートアスリートのYUKIちゃんは年代別1位✨
でも
「総合入賞できなかったから年代別になるけん。」
と悔しそう…。
足も痛そう、「塹壕足」という状態ですね…。
この後、26時間寝ずに走って来て頭がぼーっとしている(しかもくさい)
YUKIちゃんをとりあえず自分の泊まった宿の風呂に浸けw いいにおいにして、
きれいなYUKIちゃん、にしてからリリース、
今後も勝手にサポートしていきますので、よろしくね!